今日読んだ本と感想。
震災後、国民的関心事となった電力問題。しかし議論がこじれる一方なのは、「理想」と「現実」が混同されているからではないか。再生可能エネルギーの将来性は楽観できないし、電力自由化や発送電分離がユーザーのメリットになるとは限らない。さらに世界の資源争奪戦は熾烈を極める一方だ。現実的で妥当な選択肢はどこにあるのか。電力問題のウラオモテを知り尽くした元政策担当者が客観的データをもとに徹底解説する。
目次
- まえがき
- 第1章 電力不足の打撃と損失
- 原子力発電所が全て止まったら/節電のモチベーションとリバウンド/大規模停電を知らない日本人/電気は「インフラ中のインフラ」/節電で企業が受けたダメージ/年間3兆円の国富流出/電気料金の上昇を人件費に置き換える/低所得者と寒冷地への打撃/値上げをどこまで受け入れられるか
- 第2章 原発依存にかたむいた事情
- オイルショックの衝撃と教訓/「脱石油」と「電源多様化」/原子力という安全保障/経済性を追求した九〇年代/地球温暖化という新たな軸/鳩山首相の無謀な宣言/25%削減の切り札は原子力依存/原発停止という大番狂わせ
- 第3章 エネルギー政策の基礎とルール
- エネルギー政策の基本は「3つのE」/震災で入れ替わった優先順位/鳩山目標を取り下げるのは今/夢が叶うのは30年先/資源交渉の武器を確保せよ/全部の卵を入れてはいけない/メリットとデメリットの検証/不利な契約条件のLNG/最新技術を駆使した石炭/いざという時の石油火力/明暗分かれた原子力と再生可能エネルギー/原発をめぐる二元論からの脱皮/エネルギー源に「正邪」はない
- 第4章 再生可能エネルギーの不都合な真実
- 「再生可能エネルギー法」と脱原発は無関係/「固定価格買取制度」はユーザー負担/負担額が高騰したヨーロッパ/この制度で技術革新はできない/あまりに少ない供給量/環境に悪影響を与える発電所/莫大なコストと土地が必要/自然をコントロールするコスト/「環境先進国」ヨーロッパの実情/風力発電のグラフに隠されたからくり/「脱原発」するドイツのしたたかさ/個人任せのあやふやな計画/ブームが過ぎても続けられるか/グリーンイノベーションは日本では起きない/サンシャイン計画の残夢/政策実施者と政策批判者
- 第5章 原子力をめぐる不毛な論争
- それでも原子力は維持すべきだ/技術と人材を無駄にしない/「安全性」基準は政策目的ではない/「命を守る」という抽象論/シュプレヒコールでは何も動かない/原子力への不信感はどこから来るのか/安全を設備設計に求める日本人/危機対応力をつける方法/再稼働への高いハードル
- 第6章 賠償を抱えた東電の行く末
- 50年前の原賠法に書かれていること/賠償責任を免れた国/「天災地変」をめぐる駆け引き/東京電力は生かさず殺さず/「まな板の鯉」に民間の活力はない/「現場力」は数少ない財産/利益が全て賠償に消える会社/原子力損害賠償スキームをどう見直すべきか
- 第7章 電力自由化の空論と誤解
- 自由化された電気料金は野菜の値段と同じ/「自由化=値下げ」という誤解/需要抑制手段は机上の空論/再生可能エネルギーと発送電分離は正反対/余剰設備のコストを誰が受け持つか/リスクの高い不安定な投資/電源多様化は一人でできない/国際資源調達力の確保/分散型システムはリスクを分散するか/発送電分離と民間資本の壁/欧米の自由化で料金は下がったか/自由化の弊害を解消するために
- 第8章 「東日本卸電力」という発想の転換
- 日本における自由化の流れ/新規参入は予想以上に伸びず/「小売りの自由化」と「発電の大規模化」/「大規模卸電力会社」と公平性/ユーザーのニーズにあわせて電気を売る/国と民間で「原発機構」を作る/東京電力の将来像は「東日本卸電力」/9地域独占は戦後の混乱期に生まれた/東日本と西日本で分ける必然性/全員が不満なのはいい政策の証
東日本大震災での福島原子力発電所の事故以降に話題になった、いろいろな発電方法(特に再生可能エネルギーといわれるもの)のメリットだけではなくデメリットも知ることが出来てよかった。メリットは既に十分話題になってたので。
著者は、原子力発電を賛成か反対かの二元論でただ考えるのは良くないといい、私もその通りだなあと思った。どんなことでもそうだけど、賛成にしても反対にしても、ちゃんと冷静に意見を述べることは大切だと思う。で、著者の考えはというと、原子力は維持するべきで、その理由の一つとして、電源多様化の必要性からとあったのが引っかかった。電源多様化の大切さは分かったけど、その電源多様化と原子力の維持は私の中では一致しなかった。例えば 原子力も含めて10個の電源があるとすれば、原子力を維持しなくても9の電源が残るので、原子力のメリットとデメリット、と10個の電源が9個の電源に減ることを比較した時、原子力のデメリットが大きいと結論が出れば電源の多様化という根拠は説得力がなくなりそうなので。(もちろん、極端な話として2個の電源が1個の電源になるなら原子力のデメリットよりも電力多様性の重要性の方が比率が大きくなるだろうけど。)
もっと楽観的な考えとしては、仮に今10個の電源でも、これからなにかしらのメリットが大きくデメリットが小さい電源が発明されて、10個の電源が11個、12個と増えていく可能性だってあると思うので。(私は特にこっちを期待したい!)
ということで、人間は今まで困難に直面してもそれを知恵を絞って、新しい発想、発明、発見によって乗り越えてきたので、これからもそうあってほしい、そして私自身もそうありたいなあと思った今日この頃。
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